ゲームアプリと資金決済法上の論点について検討

2016年5月18日の毎日新聞の記事によれば、無料通信アプリ大手のLINE株式会社(以下「LINE」という。)のスマートフォン用ゲームで使うアイテムである「宝箱の鍵」が資金決済法上の「前払式支払手段」に該当すると、同社を立ち入り検査していた関東財務局により認定されたとのことです。
以下では、ゲームアプリの仮想通貨がいかなる場合に資金決済法上の「前払式支払手段」に該当するか検討するとともに、それ以外の資金決済法上の論点についても検討します。

1.LINEの「宝箱の鍵」(二次通貨)、ナイアンテックの「ポケコイン」(一次通貨)

(1)LINEの「宝箱の鍵」

LINEの提供するアプリの一つであるLINE POPにおいては、「ルビー」との名称の仮想通貨が設けられています。「ルビー」については、同社は従前から資金決済法の前払式支払手段として届出をしていました。
ユーザーは、LINE POPのゲーム中に出現する「宝箱」のブロックをゲーム中に消去することで「宝箱」を取得できました。
「宝箱」の中には、ランダムに、
①写真フレーム(プロフィールに使用できるフレーム)
②タイムプライス(このブロックを消すと、プレイタイムが最大10秒増える)
③イージーコンボ(コンボ判定時間が10%増え、コンボしやすくなる)
④スーパーキャンディ(全てのブロックがキャンディブロックでスタート)
⑤ルビー(10個、20個、100個)
が入っていました。

もっとも、「宝箱」を開けるためには別途「宝箱の鍵」が必要であった。
「宝箱の鍵」を手に入れる方法は、
①アイテムショップにてルビーと交換
②1日1回目のログインボーナスで1個
③デイリーミッションのクリア
④友達招待といった方法
がありました。

「宝箱の鍵」の使用用途は、2015年7月の使用変更前は、「宝箱を開ける」こと以外に、使用数に応じてゲームを先に進めたり、使えるキャラクターを増やしたりすること可能であったが、使用変更後は、「宝箱を開ける」ことにしか利用できないことになっていました。
LINEはこの指摘の後、「ルビー」だけでなく「宝箱の鍵」も資金決済法上の「前払式支払手段」として届出をしています。

(2)ポケモンGOのポケコイン

2016年8月26日の日本経済新聞の記事によれば、スマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」に出てくる「ポケコイン」と呼ばれるゲーム内通貨が、プリペイドカードと同じ資金決済法上の「前払式支払手段」に当たるかどうかに金融庁が関心を示しており、同庁は実態の把握に向け、ゲームを提供するナイアンティック社にヒアリングを始めたとのことでした。
これを受けて2016年10月3日、「合同会社ナイアンティック・ペイメント」が設立され、現在は同社が「ポケコイン」について前払式支払手段としての届出をしています。

2.ゲームアプリ事業者が「仮想通貨」を発行する理由

ゲームアプリには、任天堂が出した「MARIO RUN」のように「売り切り型」のゲームもあるが、アイテム課金をするためにそのゲーム内のみで用いることができる仮想通貨を設けているゲームが多いです。
ゲームアプリの「仮想通貨」は、下記のポケモンGOのポケコインの例のように、多くの仮想通貨を取得すればするほど、1単位あたりの購入金額が小さくなるよう設定している場合が多いです。

ポケモンGOのポケコインの購入金額

ポケコイン 価格 1ポケコイン当たりの単価
100ポケコイン 120円 1.2円
550ポケコイン 600円 1.09円
1,200ポケコイン 1,200円 1円
2,500ポケコイン 2,400円 0.96円
5,200ポケコイン 4,800円 0.923円
14,500ポケコイン 11,800円 0.813円

ゲームのユーザーとしては、1単位あたりの金額が小さくなるので必要以上に多くの仮想通貨を購入するよう誘因されるので、事業者としても1回ごとの課金よりも仮想通貨による課金の方がより儲けが大きくなるのです。これがゲームアプリ事業者が「仮想通貨」を発行する理由です。

3.資金決済法上の規制

資金決済法上の「前払式支払手段」とは、①金額等の財産的価値が記載・保存されること(価値の保存)、②対価を得て発行されること(対価発行)、③商品・サービスの代金の支払に使用されること(権利行使)のいずれの要素も満たすものです(同法3条1項)。また、「前払式支払手段」は証票を伴うものだけでなく、サーバ型も含まれます。

ゲーム内の仮想通貨(LINE POPのルビーやポケモンGOのポケコイン等の「一次通貨」)は、①購入した仮想通貨の金額は事業者のサーバに記録されるので「価値の保存」が認められ、②仮想通貨の購入のために金銭の支払いがあるので「対価発行」が認められ、③ゲーム内アイテムの購入のため、購入した仮想通貨を使用するので「権利行使」が認められるため、「前払式支払手段」に該当することは明らかです。

資金決済法上、前払式支払手段の発行者から商品の購入やサービスの提供を受ける場合に限り、これらの対価の弁済のために使用できる前払式支払手段は「自家型前払式支払手段」(同法3条4項)という。スマートフォンのアプリ事業者が発行する「仮想通貨」は、その事業者のアプリでしか使用できないので「自家型前払式支払手段」に該当するものです。

自家型前払式支払手段は、基準日未使用残高が1000万円を超える場合は財務局に届出をし、基準日未使用残高の2分の1に相当する発行保証金を法務局に供託する必要があります(同法14条)。発行保証金を供託する代わりに、銀行との間で発行保証金保全契約の締結をすること(同法15条)や、信託会社・信託銀行との間で発行保証金信託契約を締結すること(同法16条)が認められています。

4.「宝箱の鍵」はなぜ「前払式支払手段」に該当すると認定されたのか

では、LINE POPの「宝箱の鍵」は何故当局により「前払式支払手段」と認定されたのでしょうか。ゲームアプリ内での「仮想通貨」で購入できるアイテムが「二次通貨」として、資金決済法上の「前払式支払手段」に該当するか否かの問題です。上記3で掲げた3つの要件の観点で検討してみます。
まず、購入した宝箱の鍵の数量はLINEのサーバに記録されるので「①価値の保存」が認められます。

次に、「宝箱の鍵」は、現金では購入できないが、現金の対価として取得したゲーム内通貨のルビーを用いて購入できる(ボーナス、ミッションクリア、友達紹介で得たものは対象とならない。)ので、「②対価発行」も認められます。 「③権利行使」については、使用変更前後に分けて検討します。

仕様変更前の「宝箱の鍵」は、「宝箱を開ける」用途以外に、使用数に応じてゲームを先に進めたり、使えるキャラクターを増やしたりすること可能であったので、「役務の提供」のために利用という点で、ルビーと同様、「③権利行使」があることは明らかです。

これに対して、使用変更後の「宝箱の鍵」は、「宝箱を開ける」ことにしか利用できないものの、「宝箱」は「宝箱の鍵」でしか開けられず、「宝箱」はゲームの進行を容易にするアイテムやルビーを取得できるので、「③権利行使」があると判断されたのではないかと考えられます。
「宝箱の鍵」のような「二次通貨」が資金決済法上の「前払式支払手段」に該当するか否かのポイントは以下のとおりであると考えられます。

  • 対価は「金銭」に限らず、現金の対価として取得した「仮想通貨」も対象となり得る。
  • LINE POPの「イージーコンボ」やポケモンGOの「おこう」のように、「強化アイテム」や「ゲームを促進するアイテム」自体は「前払式支払手段」に該当しない。
  • 「宝箱の鍵」のように「強化アイテム」や「ゲームを促進するアイテム」を取得するための「道具」は、その取得の対象となるアイテムがどのようなものか分からない場合や使途が限定されていても「前払式支払手段」に該当する。

この点、「ユーザが当初支払う金銭と比較して、最終的な取引で得られる便益の価値が著しく低い場合には、ユーザが当初支払った金銭は二次通貨の発行の対価として支払われたものではないと考えるのが素直である。逆に、最終的な取引で得られる便益が当初支払った金銭の額と釣りあっており、ユーザが当初取引で得られる物品、役務を目的に課金しているとみられるような場合には、間にどのようなギミックを挟んだとしても、最終的に決裁手段として用いられる二次通貨は前払式支払手段に該当すると評価するべきであろう」とする見解があります。

傾聴すべき意見ですが、「最終的な取引で得られる便益の価値が著しく低い場合」に該当するか否かの判断はかなり難しいでしょう。

5.ゲームアプリの資金決済法上のその他の論点

(1)基準日未払残高の管理

資金決済法上は、基準日(毎年3月31日及び9月30日)においてその自家型前払式支払手段の基準日未使用残高がその発行を開始してから最初に基準額(1,000万円)を超えることとなったときは、基準日の翌日から2月を経過する日までに、届出書を金融庁長官に提出しなければならないこととされている(資金決済法5条1項)。すなわち、基準日未使用残高が1000万円以下の場合には届出をする必要はありません。

もっとも、零細のゲームアプリ事業者の中には、仮想通貨の未使用残高についての管理自体を行っていないところも多数あり、自社の仮想通貨の未使用残高が1000万円を超えるか否か自体把握していない会社が多数あります。

およそ、ゲームアプリに「仮想通貨」を設ける以上、前払式支払手段の届出をしなければならないことになる可能性があるのですから、スタートアップの時点から仮想通貨の未使用残高について管理をすべきです。

(2)仮想通貨の使用期限

「前払式支払手段」のうち、発行の日から6月以内に限り使用できるものについては、資金決済法上の規制の対象外となります(同法4条2号、同法施行令4条2項)。
したがって、仮想通貨が発行日から6ヶ月以内しか使用できないのであれば、前払式支払手段としての届出は不要です。

もっとも、ゲームアプリ事業者にヒアリングをしたところ、iOSやandroidのアプリ開発では有効期限6ヶ月以内の仮想通貨を禁止しているようであり、この例外は事実上使えないようです。

(3)仮想通貨の無償提供

前払式支払手段は対価性を要求しているため、無償で提供された仮想通貨については、未使用残高に含めなくてよいです。
もっとも、無償部分と有償部分の仮想通貨を分けて管理していない場合には、供託等を要する基準日未使用残高が大きくなってしまいます。

(4)他の仮想通貨との交換

他の仮想通貨(自社・他社のもの問わず)と交換が出来てしまうと、当該他の仮想通貨の発行残高も含めて、基準日未使用残高として保全をしなければならないことになるので注意を要します。
LINEの「ルビー」と「宝箱の鍵」は正にこのような関係にあります。

(5)仮想通貨の価格は?

上記2で説明したとおり、1単位の仮想通貨の価格は購入する仮想通貨の量に応じて変動することとしているアプリゲーム事業者が多いようです。
この場合、一番容易な基準日未使用残高の算定方法は、1番高い1単位あたりの価格(上記2の例では1ポケコイン1.2円)に未使用の仮想通貨の数を乗じたものとすることです。

もっとも、この場合、仮想通貨大量購入で1単位の仮想通貨の価格を低くしすぎると、基準日未使用残高が大きくなってしまうおそれがあるので注意を要します。

(6)発行保証金の保全方法

上記3で説明したとおり、発行保証金の保全方法は、供託のほか、発行保証金保全契約や発行保証金信託契約も認められている。未使用残高の管理という点では、発行保証金保全契約が一番容易ですが、銀行等から保証委託料を徴収されるため、ある程度の資産規模以上のアプリゲーム事業者しか利用していないのが実態です。LINEは「ルビー」や「宝箱の鍵」の基準日未使用残高について発行保証金保全契約により保全しています。

発行保証金の保全方法の比較

発行保証金の供託 発行保証金保全契約 発行保証金信託契約
契約の締結 不要 必要 必要
履行時期 1.基準日未使用残高が基準額を超えることとなった基準日の翌日から2月以内
2.追加供託は、供託額の不足の事実を知った時から2週間を経過する日まで
なし なし
当局の承認・届出 必要なし 事前届出必要 承認必要
報酬 なし 銀行等から保証委託料を徴収される。 信託会社等から信託報酬を徴収される。
未使用残高の把握 基準日(毎年3月31日及び9月30日)において把握の必要あり。 毎日の計算や基準日における把握の必要はない。 毎日計算の必要あり。

(7)仮想通貨の払戻し

前払式支払手段の払戻しは、「基準日を含む基準期間における払戻金額の総額が、当該基準日の直前の基準期間において発行した前払式支払手段の発行額の20%を超えない場合などの限られた場合」、「基準日を含む基準期間における払戻金額の総額が、当該基準期間の直前の基準日における基準日未使用残高の5%を超えない場合」、「保有者が前払式支払手段を利用することが困難な地域へ転居する場合、保有者である非居住者が日本国から出国する場合その他の保有者のやむを得ない事情により当該前払式支払手段の利用が著しく困難となった場合」などに限って認められています(資金決済法20条2項、前払式支払手段に関する内閣府令42条)。

法定された場合以外の任意の払戻しをすると、前払式支払手段の届出ではなく、同じ資金決済法上の資金移動業者(100万円以下の少額送金)としての登録が必要となることに留意を要します。
また、ゲームアプリに射幸性の高いガシャ(電子くじ)を導入している場合には、アプリゲーム事業者自身によるRMT(リアルマネートレード)として刑法の賭博罪(刑法185条)に該当する可能性にも注意を要します。

(8)外国の事業者によるスマホゲームの仮想通貨

外国において前払式支払手段の発行の業務を行う者は、国内にある者に対して、その外国において発行する前払式支払手段の勧誘をしてはならないこととされています(資金決済法36条)。

したがって、たとえ、日本に拠点のない外国の事業者であっても、日本の利用者向けに開発されたスマホゲームにおいて仮想通貨を導入すると、資金決済法の規定が適用され、前払式支払手段の届出が必要となることに留意する必要があります。

「Q&A 資金決済法・改正割賦販売法」著者。資金決済法と改正割販法の業者規制・実務面を横断的に解説。

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